芳辞 · 楚辞を読む

思美人

屈原

伝言と守初

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思美人兮,揽涕而竚眙。

美人を思ひ、涕を攬りて竚眙す。

美しい人を思い、涙をぬぐって、長いこと立ち尽くして見つめている。

媒绝路阻兮,言不可结而诒。

媒絶え路阻まりて、言は結びて詒る可からず。

仲立ちは絶え道はふさがれて、言葉をまとめて届けることもできない。

蹇蹇之烦冤兮,陷滞而不发。

蹇蹇の煩冤、陥滞して発せず。

忠直ゆえの悩みと無念は、困窮の中に沈んで、口に出すこともできない。

申旦以舒中情兮,志沉菀而莫达。

旦に申ぶるまで以て中情を舒ぶるも、志は沈菀して達すること莫し。

夜通し明け方まで胸の内を述べ続けても、志は沈み鬱屈して、誰にも伝わらない。

愿寄言于浮云兮,遇丰隆而不将。

言を浮雲に寄せむと願ふも、豊隆に遇ひて将らず。

言葉を浮き雲に託したいと願うが、雲の神豊隆に出会っても、運んではくれない。

因归鸟而致辞兮,羌迅高而难当。

帰鳥に因りて辞を致さんとするも、羌迅く高くして当たり難し。

帰る鳥に頼んで言葉を届けようとするが、ああ、飛ぶのが速く高くて、追いつけない。

高辛之灵盛兮,遭玄鸟而致诒。

高辛の霊盛んにして、玄鳥に遭ひて詒るを致す。

高辛氏の神霊はなんと盛んであったことか、玄鳥に出会って、その贈り物を受けたのだ。

欲变节以从俗兮,媿易初而屈志。

節を変じて以て俗に従はむと欲するも、初めを易へて志を屈するを媿づ。

節操を変えて世俗に従おうかとも思うが、初心を改め志を曲げることが恥ずかしい。

独历年而离愍兮,羌凭心犹未化。

独り年を歴て愍に離るも、羌憑る心猶ほ未だ化せず。

独り長年にわたり憂いを受けてきたが、ああ、胸に満ちた思いは今も変わっていない。

宁隐闵而寿考兮,何变易之可为!

寧ろ閔を隠して寿考せむも、何ぞ変易の為す可けむや。

むしろ憂苦を忍んで老年まで生きようとも、どうして志を変えることができようか。

知前辙之不遂兮,未改此度。

前轍の遂げざるを知るも、未だ此の度を改めず。

先人がこの道を行って成し遂げられなかったことを知りながら、私はなおこの尺度を改めていない。

车既覆而马颠兮,蹇独怀此异路。

車既に覆りて馬顛るるも、蹇として独り此の異路を懐く。

車はすでに覆り馬も倒れたのに、私は独りこの人と異なる道を抱き続けている。

辞意のまとめ

浮雲も帰る鳥も心を届けられず、媒介が多いほど訴える相手のいない困境は明らかになって、詩人の思慕は広がり続けながら確かな応答を得ない。