怨上
王逸
上下の同流と独居
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令尹兮謷謷,群司兮譨譨。
令尹謷謷として、群司譨譨たり。
令尹は忠言を聞かず口から出まかせを言い、役人たちはぺらぺらとおしゃべりして争って媚びる。
哀哉兮淈淈,上下兮同流。
哀しいかな淈淈として、上下流を同じくす。
悲しいことに国中は濁り乱れ、君も臣も同じく愚かで、濁流にともに流れている。
菽藟兮蔓衍,芳虈兮挫枯。
菽藟蔓衍し、芳虈挫け枯る。
菽藟のようなつまらぬ草がはびこり、芳しい白芷は折られて枯れる。
朱紫兮杂乱,曾莫兮别诸。
朱紫雑乱して、曾ち諸を別つ莫し。
朱と紫が入り混じって乱れ、それを見分ける者がまったくいない。
倚此兮岩穴,永思兮窈悠。
此の巌穴に倚り、永く思ひて窈悠たり。
私はこの岩屋に身を寄せて退き、いつまでも思いにふけって、心は奥深く遠くへさまよう。
嗟怀兮眩惑,用志兮不昭。
嗟懐眩惑せられ、志を用ふれども昭らかならず。
ああ、懐王は佞人の群れに目をくらまされ、私が忠信の志を貫いても誰にも明らかに見てもらえない。
将丧兮玉斗,遗失兮钮枢。
将に玉斗を喪はむとし、鈕枢を遺失す。
君は貴い玉斗を失おうとし、玉斗を正す鈕枢までも失ってしまう。
我心兮煎熬,惟是兮用忧。
我が心煎熬せられ、惟れ是を用て憂ふ。
わが心は煎られ焦がされるようで、まさにこのことのために憂えてやまない。
进恶兮九旬,复顾兮彭务。
悪を進むること九旬、復た彭務を顧みる。
君は紂王の九十日の長酒のようにひたすら悪を重ね、私はひるがえって彭咸と務光のことを思う。
拟斯兮二踪,未知兮所投。
斯の二蹤に擬せんとするも、未だ投ずる所を知らず。
この二人の賢士の足跡にならって身を投げようと思うが、どこへ身を投じればよいのかまだ分からない。
谣吟兮中野,上察兮璇玑。
中野に謡吟し、上に璇璣を察る。
野の中で歌を口ずさみ、空を仰いで天の中心の北斗の璇璣を見る。
大火兮西睨,摄提兮运低。
大火西に睨き、摂提運りて低し。
大火の星はもう西に傾き、摂提の星も巡って低く垂れている。
雷霆兮硠磕,雹霰兮霏霏。
雷霆硠磕として、雹霰霏霏たり。
雷鳴がごろごろと轟き、雹と霰がしきりに降りしきる。
奔电兮光晃,凉风兮怆悽。
奔電光晃き、涼風愴悽たり。
走る稲妻の光が揺らめき、冷たい風が悲しみを誘う。
鸟兽兮惊骇,相从兮宿栖。
鳥獣驚駭するも、相従ひて宿棲す。
鳥や獣は驚きおびえても、互いに連れ立って一緒にねぐらに帰る。
鸳鸯兮噰噰,狐狸兮徾徾。
鴛鴦噰噰として、狐狸徾徾たり。
鴛鴦は噰噰と声を合わせて鳴き、狐や狸は群れをなして連れ立っている。
哀吾兮介特,独处兮罔依。
吾が介特なるを哀しむ、独り処りて依る罔し。
私がただひとり孤立しているのを悲しむ。ひとり住まいして頼るものがない。
蝼蛄兮鸣东,蟊蠽兮号西。
螻蛄東に鳴き、蟊蠽西に号ぶ。
螻蛄は東で鳴き、蟊と蠽の蝉は西で叫ぶ。
蛓缘兮我裳,蠋入兮我怀。
蛓我が裳に縁り、蠋我が懐に入る。
毛虫の蛓がわが裳を這い上がり、芋虫の蠋がわが懐に入り込む。
虫豸兮夹余,惆怅兮自悲。
虫豸余を夾み、惆悵として自ら悲しむ。
大小の虫どもが私をはさんで取り囲み、私はがっかりとうちしおれて、ひとり悲しむ。
伫立兮忉怛,心结縎兮折摧。
佇立して忉怛し、心結縎して折摧す。
長く立ちつくして憂い痛み、心は固く結ぼれて、折られ砕かれたようだ。
声が多いほど、独り行く者に応える者のないことがはっきりする。